【KZ Acoustics ASXレビュー】秋の夜長に高解像度な低音でJazzyな楽曲を楽しむ大人のイヤホン
新世代Xシリーズのフラッグシップ!! |
はじめに
日が暮れるのが早くなってきましたね。早いもので気が付けばもう11月。芸術の秋、音楽の秋、食欲の秋etc色々言われる秋ですが、今回は先週に引き続き音楽の秋シリーズで進めていきたいと思います。さて、本日はKZ Acousticsさんのイヤホン、新世代XシリーズのフラッグシップモデルであるASXを紹介させていただきます。ASXはイヤホン片側に10機ものドライバーを積んだイヤホンです。中華イヤホンの雄であるKZは複数のドライバーを搭載した、いわゆる多ドライヤホンを数多く販売してきていますが、今回の発売されたASXはKZ史上最高数のバランスド・アーマチュア(以下BA)を搭載しており、発売前にネット上に流れたASXのスペックシートを見たオーディオオタクファンの方々はかなり注目して、待ちわびていたのではないでしょうか?片側10機、両側で20機ものBAを積んでいるイヤホンは、通常なら金額も10万円程度は覚悟しないといけないのだと思いますが、そこはKZ Acoustics。何とびっくり、お値段はその1/10です!!にわかには信じがたい価格設定ですね。KZ Acousticsさんは、最近ではオーディオオタクファン以外の人たちにも徐々に浸透してきた感じがあり、今回ご紹介するASXは、そんなKZ
Acousticsの勢いを象徴するような万人向けのイヤホンなのでしょうか?それとも選ばれたオーディオオタクファンのための専用機なのでしょうか?期待と不安が入り混じる(謎)ASXはどのようなイヤホンに仕上がっているのでしょうか?
いつも通りの怪しげな梱包 |
使ってみた
ASXはKZ Acousticsの高級ラインに採用されている黒箱に入っていました。内容物はいつもの通りイヤホン本体、銀メッキアップグレードケーブル、SML三種類のイヤーピースと謎プレート、あとは紙切れが数枚です。例のごとくMサイズのイヤーピースは予め本体にセットされていて、イヤーピースは黒ではなく半透明の白色タイプでした。このイヤーピースですが、よく見るといつものイヤーピースと違います。以前付属していやイヤーピースに比べて薄く、かつ、イヤーピースが耳の奥まで入るデザインに変更されています。この薄さはかなりのもので、ペラペラ感が半端ないです。もしかすると薄い方がフィットするのでしょうか・・・(謎)
大人の嗜み黒箱 |
左がASXの付属品。非常に薄くステム部分が短い。 |
ケーブルは0.75㎜のCpinタイプです。ASXのカラーリングは、フェイスプレートが銀色でシェル部分が透明なタイプとフェイスプレートが黒色でシェル部分がスモークの二色展開で、今回は何色を購入するか少し悩んだのですが、フェイスプレートがシルバーのタイプを選びました。ちなみに銀メッキアップグレードケーブルには例のごとくマイク(リモコン)有と無しの2タイプありますが、ZAXの時はリモコン有を選んだので今回はリモコン無しを選んでみました。
プレミアム感溢れる謎プレートもセット |
イヤホン本体をじっくりと見ていきましょう。第一印象は結構ゴツイです。手に取るとずっしりとした重さがあります。ちゃんと耳に収まるかが少々不安です。フェイスプレートはおそらくアルミ製で幾何学模様が彫り込まれており、彫り込まれた溝部分に水色の塗料で色が付けられていて少し爽やかな雰囲気です。フェイスプレートの外周は、最近のノートPCなどでよく使われているダイヤモンドカットが施されていて、光の当たり具合によってキラリとひかる仕上がりです。
手作業で研磨しているらしいです |
シェルは樹脂製で、Amazonの販売ページを見ると人間の肌に無害な天然樹脂と書かれています・・・天然なのでしょうか(-_-;)私が選んだフェイスプレートがシルバーのタイプは、シェル部分が透明で中が完全に透けて見えます。フェイスプレートが黒のタイプは、シェルがスモークなので、クリアほど透け透け感がないかもしれません。シェルは写真のように盛り上がった造形をしています。一部のイヤホンのウィング?スタビライザー?などをひっかけることが多い、耳の何という部分かわからない場所(耳輪脚?)に、シェルの盛り上がりが収まる様になっています。重めのイヤホンなので耳の形状によってこれが程よく収まるかどうかが運命の分かれ道(?)になりそうです。
左:ASX 右:ZAXで結構大きさが違う |
音のチェックはいつものようにSHARPのR2コンパクトで、Amazonミュージックからダウンロードした楽曲を使用します。実は今回テストする楽曲でかなり悩みました。まずはZAXで試聴したヨルシカさんの「ノーチラス」、EDXで試聴したLiSAさんの「炎」を試してみたところ、どちらの楽曲ともに良い音で悪くない感じなのですが、今一つピンとくるものがありません。ASXを実際に試聴する前は、All BAイヤホンと言うことで、基本的にはモニターライクで高音域の解像度が高いイヤホンだろうなと思っていました。しかし、実際に音を出してみると、強めの低音が目立ち、中高音域以上のBAイヤホンの美味しい部分を見つけることができなかったのです。試しにボリュームを、半分くらいまで上げてみると、低音域がくっきりした音になり、中高音域以上の音も綺麗に出るようになりましたが、ボリュームを絞ると今一つなバランスに戻ってしまいます。こいつは難しいイヤホンだなと思いました。
EDXに引き続き、屋外撮影!! |
気を取り直してピアノ楽曲を聴いてみると、未だかつて聞いたことが無いレベルの素晴らしい音質を体験できました。その音はまさに生ピアノです。しかし、ピアノに特化したイヤホンと締めくくるのも何となく微妙だなと思いました。恐らくこの記事を読む方は、もう少し違った層の方(謎)だと思うのです。
白いパーツはBAをしっかりと固定している |
そんな中で、毎日の通勤帰宅の電車の中でAmazonミュージックで色々な曲を一週間くらい聴き続けていました。途中でイヤーピースをShure純正フォームイヤーピース改からJVCのスパイラルドットに変えたりしつつ聴き込んでいたのですが、ある日変化が生じてきました。自分の耳が慣れたのか、エージング(?)が進んだのかはわかりませんが、小さな音量で聴いても低音のこもり感がなくなり、箱出しで感じた低音域の違和感も感じなくなりました。イヤーピースの問題かと思い、Shure純正フォームイヤーピース改に戻してみたのですが、JVCスパイラルドットよりも更にくっきりと明瞭な音に感じます。エージングは結構オカルトだと思っていたのですが・・・
シェルの中には緑色の制御基盤が見える |
そんな一週間の聴き込みの中で、ASXのテストにピッタリの楽曲を見つけることができました。ヨルシカさんの「逃亡」です。「逃亡」は、ベースとピアノ、ドラムが主役で、そこにアコースティックギターとエレキギターが彩を与えるような楽曲です。この楽曲はイヤホン泣かせの楽曲だと思います。低音域から低中音域の部分が混み合いやすく、生半可なイヤホンでは低音の魅力が十分に引き出せないのです。低音が売りのイヤホンはふくよかかつマイルドな低音で音がぼやけやすいものが多く、ZAXのように低音がぼやけずにエッジが出るイヤホンでは低音の重さが出ないことが多いと思います。しかし、ASXは低音の豊かさと低音の切れという両立させることが難しい要素をバランス良く両立させています。では、ASXを使って「逃亡」を一緒に聴いていきましょう。
同じ多ドラでもZAXとは音の感じがかなり違う |
イントロが始まると最初にリズミカルなアコースティックギターのリフが左のイヤホンから聞こえてきます。低音が売りのイヤホンだと言いましたが、アコースティックギターらしい生々しい金属感はしっかりと表現されています。そして、すぐにベースとピアノ、ドラムが入ってきます。非常に太いベースの低音とピアノの低音側が絡みあうようなフレーズです。この部分は多くのイヤホンにとって、かなり再生難易度が高い部分だと思います。
しかし、ASXに搭載された10機のBAからは、エッジがあるのに太い低音がお互いにぶつからず、そして埋もれずに再生されてきます。低音域の解像度が高いと言えば良いのでしょうか?低音の中に含まれる、高音成分を含んだ倍音がきちんと再生されることで、ベースとピアノそれぞれの低音がその輪郭を維持しており、楽器同士の音が重ならないで聴こえているようです。もちろん演奏やレコーディング時のmixが素晴らしいからこそ、ここまでの一体感を持ちながら分離感を出せるのだと思います。他のイヤホンでも試したのですが、「逃亡」という楽曲から、ここまでのライブ感を引き出せるイヤホンは、私の手持ちのイヤホンではASX以外にありませんでした。
ASXじゃなきゃ出せない音がある |
ドラムサウンドではタムやバスドラムは胴鳴りを感じるような音の深みがあり、スネアは軽快に、シンバルは冷たい金属感をしっかりと伝えてきます。エレキギターのソロパートではフロントピックアップらしいサウンドが他の楽器に埋もれずに耳に届いてきます。ささやくような歌い方が特徴的なボーカルは、まるで耳元で歌っているかのような臨場感を感じます。そういう観点からASXを見ると、ある意味でモニター的なイヤホンだと言えるのかもしれません。
しかし、ASXはモニター的に冷静に音を分析するようなイヤホンかというと、やはりそうではないでしょう。新世代Xシリーズのイヤホンは低音の表現に力を入れたイヤホンだと(勝手に)思っていますが、ASXの真骨頂は、低音域から中音域の表現力、しかもどちらかといえば、楽器の音の表現力に優れたイヤホンなのだと思います。そして、その低音域は単に重い、深い音ではなく、解像度の高さを感じるのに重たく深い音を奏でます。文字にするとシンプルですが、イヤホンでここを両立するのはかなり難しいのではないでしょうか。ASXは、まさに新世代Xシリーズのフラッグシップモデルにふさわしい表現力を持ったイヤホンだと思います。
使い手を選ぶフラッグシップイヤホンかも |
おわりに
本日はKZ Acousticsの新世代XシリーズのフラッグシップモデルであるASXをレビューいたしました。ASXは精密5軸CNC成形プロセスで作られたアルミ合金製のフェイスプレート(しかも手で研磨されているとのこと)を備えたイヤホン筐体に、片側10機のBAを搭載したイヤホンで、まさにフラッグシップモデルと呼ぶにふさわしい造りのイヤホンでした。購入前は10BAと言うことで、高音域が華やかなイヤホンを予想していたのですが、実際のところは極端に高音域に音が割り振られたものではなく、むしろ低音域の表現力を中心にして、そこから全音域に渡って解像度を高めたようなイヤホンでした。同じ新世代Xシリーズの中で非常に評価の高いZAXは、ある種、低音域をすっきりタイトな低音にして、音場全体に空間的な隙間を作ることで解像度を高めたようなイヤホンでした。一方、ASXは重たい低音域を出しながらも、音場全体に空間的な隙間をあまり感じさせない方向でチューニングされているにも関わらず解像度が高く、ある種のまとまり感が強い音作りだと思いました。
初心者はZAXの方が楽しめるかもしれない |
ASXが凄いところは、低音域の表現力が強いにも関わらず、高音域も非常に伸びやかに再生されているのですが、中音域をカットしたドンシャリサウンドなのかと言えば、そうではなく中音域もしっかり艶やかさを感じるところだと思います。例えば、KZ AcousticsのベストセラーイヤホンであるZSTのようなドンシャリイヤホンで、ピアノのような音域の幅が広い楽器の音を聴くと、中音域の弱さから、小さいピアノを聴いているような感覚を受けます。しかし、様々な音域がしっかり出ているASXでピアノ楽曲を聴くと、非常にピアノらしいのびやかで豊かな音を味わえます。この辺りのバランスの良さは、流石ハイエンドに位置づけられるイヤホンだと思いました。
そのような隙のない特性を持ったASXですが、ある種、音が沢山入り過ぎた楽曲だと、のっぺりとした音に聴こえてしまうことがあると思います。以前にレビューしたZAXは、空間を感じる音作りで、楽曲が非常にドラマチックに演出されるイヤホンでしたが、ASXはZAXに比べると、解像度は高いものの音と音の間にあまり隙間を感じないチューニングなので、どちらかと言えば楽器数の少ないJazzyな曲で、ボーカルや楽器それぞれの持ち味や微妙なニュアンスが味わうのに向いたイヤホンだと思います。秋の夜長に、ヨルシカさんの「逃亡」のような楽曲を、ウィスキーグラスを片手に楽しむ感じと言えば良いのでしょうか?では目を閉じながら、ウィスキーグラスを片手に(未成年の方は麦茶を入れましょう)「逃亡」を聴いてみましょう。
「夏の匂いがした~・・・」
「逃亡」は夏の曲かもしれません(;^_^A
そんなわけで、本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
イヤホンの沼は果てしない・・・ |
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